ピーク・エンドの法則

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UI・UXエクスペリエンスピーク・エンドの法則

User Experience - 2019 - Three Philosophers

行動経済学で著名なダニエル・カーネマンのピーク・エンドの法則を見ていこう。ピーク・エンドの法則は、とある体験中に「感情の起伏が最高点に達した時」と「体験の終わりに近い時間帯の感情」で一連の体験そのものを評価してしまうという、人間のバイアスを扱っている。

美容院での出来事:帰宅まで

美容院に行くという体験からピーク・エンドの法則を考えてみよう。わりと自分はサバサバしているほうで、ねちっこい考えはしないほうなのだが、今回は少しばかり感情面の起伏を演出するようなストーリーを考えてみた。

まず家を出ると、美容院までの道のりは風が強く、寒さが身にしみた。美容院は初訪問だが予約済み。出迎えは無難な接客。シャンプー時に頭をポンポン叩かれるのが少々不快だった。調髪時の技術、コミュニケーションは無難で予定通り終了。支払い時はオススメのトリートメントも購入したので6000円越え。高くも無いが何となく虫の居所が悪い。店舗ビルの入り口を酔っ払い二人が塞いでいて迷惑だった(そもそもHBサイトのなんと写真映りの良いこと!人もビルも内装も掲載の写真と違いガッカリ)。帰宅後、購入したトリートメントのレビューを様々なサイトで確認したところ高評価だった。

人は、ピーク時と最後の体験を評価する

ピーク・エンドの法則

予測可能で平均的な出来事は、体験としてはあまり記憶に残らない。予測や希望に反すこと、例えば、女性店員のシャンプーが頭に刺激があったことは「気の利かない見習いに対応されるのが嫌だから一定レベルの美容院に来ているのに」という思いが作用し、刺激自体は軽度だったものの、嫌な体験として記憶に刻まれる。施術自体が問題なく進んでも、価格に見合ったサービスは当然だという思いからか、体験として大きなプラスには捉えない。後述するが、驚きや喜びという感情が無いと、体験としての振れ幅は小さいものとなる。

帰り際、年配の方ふたりがビルの入り口を塞ぐように陣取り酒を飲んでいたこと、これは完全な想定外であり強烈な不快感になる。これがピークの経験になり、さらにエンド期にも含まれていることから、美容院という体験自体がマイナス評価になるのは決定的だ。最後の最後で、勧められるままに購入した商品のレビューが高評価だったことに気をよくしたことも重要で、どちらかというとマイナスの体験だった美容院に一定の評価を与えることに繋がる。このように、人はピーク期とエンド期の体験を大きく評価するのだ。

マーケティング理論:ピークの維持

多くの起業家を輩出した、ハーバード・ビジネススクールのタレス・テシェイラは、動画広告と感情の関係を調査した。驚きの感情は強く注意を引くが、喜びの感情ほど長くピークを維持することは出来ず、注意を引くという点においては、驚きの感情が喜びの感情に勝るということだ。注意を引いた後に気をそらせないためには、感情の山と谷の間隔をコントロールし維持させることが最善のようだ。

人間は広告的なものを嫌う。会社のロゴなどが冒頭で出てくるのを嫌うため、まず驚きの感情を起こしてもらい、やや収まったところで喜びの感情を与えていくと良いそうだ。先の美容院の体験では、終わりよければの諺(ことわざ)のごとく体験の最後が重要になったが、広告や営業という相手にとって完全に受け身の体験になるものは、冒頭からエンドまで一貫して見てもらう工夫が重要になるだろう。会社のロゴなど、広告の中でもさらに広告性の強いものは尺の最後でも良いのだ。

まとめ

たしかにピーク・エンドの法則は、人間の感情によく当てはまるなとも感じるが、普段の生活で「何となく嫌な一日を積み重ねているな」と感じている人は、一日の中の体験をよく振り返ってみると良いと思う。先の図における感情の起伏にも体験者の主観が大きく関わっていたが、実は良いことも起こっているわけで、それにバイアスをかけて過小評価し、悪いものばかりをピークにもってくるのは損な生き方だと思うのだ。
と同時に、やはり人間は感情の生き物だということ。起こりくるすべてに一喜一憂しているという点は、常に認識しておきたい事実だ。