ユーザーと製品の常用性

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UXデザインインターフェイスアクティブユーザー化の考察

UX Designer - 2020 - Three Philosophers

アクティブユーザー(DAU,WAU,MAU) の獲得はアプリケーションやサイト制作における命題の一つだ。「繰り返し使いたい」と思うキッカケ、そうさせる製品仕様を追求することが事業の成功のカギとなる。様々な観点から考えてみよう。(参考書籍:デザイニング・マルチデバイス・エクスペリエンス/ミカル・レビン)

アクティブ化、常用性

そもそも良い製品は繰り返し使う。どのような設計にすれば、アクセス数の増加や製品の常用化に繋がるのだろうか。これは扱う製品によって様々なパターンが考えられるだろう。先日とある役員から「製品のランディングページ(HPのトップなりアプリの初期画面)で、ニュースを配信すればDAUが上昇するのでは」という問いかけがあったが、担当していた案件の特性を考えるとあまりにお粗末だなと感じた。製品にはいくつかの機能があると思うが、先ずそれら一つ一つに補完性連続性はあるだろうか、と問いかけてみる必要がある。

意外なほど(と言っては失礼だが) 売れ行きを伸ばしたApple WatchはIoT領域の製品として、ユーザーの自己定量化(Quantified Self)をアシストする。例えば歩数計。その日何歩歩いたかを知りたいだけであればアナログの歩数計でもよいのだが、腕時計のボタン一つで集計が始まり、ランキング形式などの見やすいデータ表示をスマートフォンが補完してくれる。もちろん歩数計のみならず、メールやLINEすらApple Watchから返信出来てしまうから、スマートフォンをポケットから取り出すのは必要な時だけでよくなる。この素晴らしい連帯感が常用性をアシストしているのだ。

これはブラウザを開くというアクションでも同じだ。毎日の業務フローにおいて、月額課金されているSaas系のアプリケーションに加え、GoogleのSearch ConsoleとAnalyticsまで立ち上げなければならないとすると面倒である。前述の役員のアイディアは「LPでニュースを」ということだったが、ユーザーがGAで見れる何でもないデータ(たとえば昨日のアクセス数)に必要性を感じているのであれば、それを単純に製品のトップに組み込んでしまえば、自ずとDAUは伸びる(常用性が高まる)のである。

定量化から自己変革を促す設計

さらに着目したいのが、ユーザーがApple Watch(厳密にいうと歩数に関してはスマートフォン本体がカウントしている)などに集積された自分に関する定量データを用いて自己変革のステップに移行することがあるということだ。歩けば健康につながるというメッセージであれ何であれ、普段は腰の重いユーザーも行動のキッカケとなる自分にとって都合の良いトリガーがあれば、軽い気持ちで次のステップに進めるようになるのだ。それが「製品に親しみがわく(ユーザーフレンドリー)」ということであり、反復(常用)への第1歩である。

先のLPの問題も同様で、トップにGAのデータを表示するだけではなく、そこから体験が持続するような、便利で使いやすいと感じてもらえるナビゲーションや機能バランスにしていけば、マーケティンググロースハックにおけるリテンション以後のファネルも隙がなくなってくるだろう。

体験は時とともに価値を増す

リテンションや収益化を最適化したいなら、マイクロインタラクションのページで語っている「対象が、時とともに価値を増していかないときは、デザインのどこかが誤っている」という部分にも着目したい。1年前の歩数記録や、いつもの月に比べて今月はよく歩いたなという、体験の積み重ね(ここでは定量データの蓄積とそれに対する比較作業など)があってもたらされる感動や喜びはLong Wow(ロング ワォ)とも呼ばれ、私自身も深みのある製品作りのひとつの指針にしている。

ナビゲーションを全面に出す

そして、何よりナビゲーション設計を最適化していかなければ、いつまでも伸びない新規契約数やチャーンレート(解約率)との戦いが続くだろう。経験者の私に言わせれば、この単純な命題こそほとんどのベンチャー企業がクリアできていない項目なのだ。ただ単に機能分のメニューを順番に並べれば良いというものではない。機能やページをスコアリングするなりして、階層を整え、必要なものは全面に出すことが重要である。前述のマイクロインタラクションのページでも語っているように、スマートフォンのホーム画面からすでにアプリの機能(ナビゲーション)は開始されているのである。認知しえぬ要素はトリガーにはなり得ないということだ。

UI設計時の鉄則に「ルールによって決める必要があるのは、そのインタラクションがどう働くかを、専門家でなくてもわかるようにすることだ」という項目があるが、必要なナビゲーションを前面に出したら、そのほかのナビゲーションも分かりやすく整えていこう。

このあたりの検証はユーザーストーリーマッピングを用いるなどして厳密に行いたいが、優れたUXデザイン手法をもってすれば、ビジネス上の大きな課題も少しずつクリアしていけることだろう。

まとめ:テクニックより経験

「なぜDAUが伸びないのか」「なぜユーザーに親しみをもってもらえないのか」「なぜ売れないのか」という問いかけがあるとするなら、個人的には「あなたたちが製品作りに携わった期間が短すぎるからだ」と答えるだろう。様々な属性のユーザーを幅広く意識した上での製品設計には、複雑性と簡便性のトレードオフの問題や、定義済みかカスタマイズ可能かといった難しい問題も立ちはだかるが、どのような現場に赴こうと私には(成功への)すじ(道)が見えてくる。

将棋の名人戦をこれまた名人が解説する時があったが、その時のコメントに「すじを全て読んで指す時と、(持ち時間的な問題などから)感覚的に指す時の両方があるが、感覚的に指した時も十中八九は読みが当たっている」というものがあった。これはヒューリスティックに相当する部分だろうが、ごくわずかな、局地的(限定的)にヒットする例外をのぞいては、将棋にもビジネスにも近道や偶然はないということだ。やはり、経験と学び、そこに尽きるのではないだろうか。