ユーザーストーリーマッピング

Contact

UXデザインBusinessユーザーストーリーマッピング

Designer - 2020 - Three Philosophers

ユーザーストーリーマッピングは、カスタマージャーニーマップで可視化した、ユーザーの気持ち、ニーズ(優秀なフォーマットならインサイトをも含む)や動向を、さらに細かく分析してファクトを拾い上げていく。組み合わせ方や流れも重要になってくるが、UXデザインのなかでも最強の手法のひとつである。

小学生の作文:ユーザーストーリーマッピング

さて、その最強なるユーザーストーリーマッピングはどのようなものなのだろうか。実はその原型を小学生の作文に見ることが出来るのだ。

小学生の作文はユーザーストーリーマッピングの原型だ

皆さんのまわりにはこんな作文を書く子が何人かはいただろう。大人からすると微笑ましいが、学校の先生には「細かすぎて何も伝わらない」とばかりに赤ペンでチェックされた筈だ。しかし実はこの小学生の作文こそユーザーストーリーマッピングそのものなのである。この書き方、フォーマットがプロダクトデザイン、言ってみればビジネスの場には適しているのだ。

細かな行動分析

実際のユーザーストーリーマッピングは以下のようなフォーマットになる。本来はもっと細かく行動分析を行うのだが、今回は「子供の1日の行動」を簡易的にマッピングしてみた。(1)の軸に行動のおおまかなステップ、 (2)がメインで行動を出来る限り細分化する。(3)以下は任意。ここでは使うガジェット(所有していないものは灰色)と購入候補という軸を設定してみた。

ユーザーストーリーマッピング

このように浅いレベルで行動の可視化を行ってみても、とても整理されていて見やすい。子供向けアプリ開発のヒント、塾や学校でも使われるタブレット(ここでは需要があるのに所有していないことが分かる)、スマフォや靴の絶対的価値などが、スーッと脳裏に入ってくる。

皆さんは「こんなものは当たり前だし必要ない」と思うかもしれないが、個人的にはビジネスにおけるユーザーストーリーマッピングはカレンダーのような存在だと捉えている。人生80年、変化することのない1週間や1ヶ月という単位を、なぜ壁に貼り付けた1枚の紙で確認し続けるのだろうか。答えはひとつ、それがリズムであり、単純に便利だからである。

このように行動分析というのは実に原始的でもある。権威あるノーベル賞なども原始的トピックに着目していることが多いが、灯台下暗しというか、身近な部分こそ疎かにしてしまうのが、人間の特性でもあるのだ。

オンライン共有、部署間共有

ユーザーストーリーマッピングというと、通常はスティッキー(付箋)を壁に貼り多人数でワイワイと賑やかにマッピングしていくことが多いが、 この手法に最適化されたソフトウェアもあり、それらを使えばオンライン上で部署間の共有や編集も可能になる。お世辞のうまい人が「21世紀の大発明」と呼んでいたのも、あながち冗談に聞こえないほど、私自身も確立された手法としてとても気に入っている。

ユーザーストーリーマッピングとオンライン共有ツール

何が優れているかと言えばすべての部署間を有機的に結びつけるという点である。製品は補完性やコンテクスト、連続性などがあってよりよいものになるが、こういった認知しうるタッチポイントをすべての人と共有するフローを取り入れなければ一方通行の製品しか作れない。

上のイメージでは、問い合わせフローに関して(セールス部門の方と共同で)お客さんの声や動向を共有・タッチポイント化(マッピング)し、フォームのリニューアルを行った。その際、行動経済学のナッジなどで戦術に彩りを加えていったが、目に見えたCVRの改善と手法のテンプレート化という二つの効果が得られた。(※似たような施策でそのテンプレートを用いた際は、さらに飛躍的なCVRの改善が見られた)

どのような進み方をしても、課題を相応の技術で消化していかなければならないという事実は変わらないが、戦略パターンの解説ページでも述べているように、課題の粒度がバラバラであったり、大きい単位のままであったりすると、戦略展開もいつしか行き詰まってくる。ユーザーストーリーマッピングを用いてスコープを絞っていく(課題を細分化していく)ことで、抜け目ない戦術の考案が可能になる筈だ。

製品仕様の最適化にむけて

プロダクトデザインの世界の分析は、問い合わせフローのような簡単なものだけではない。言ってみれば、AIアプリケーションなどは、ちょいと腕に自信のあるプログラマーが、ただ羅列的に単機能を並べているだけのケースも多く、機能間の補完性が全くない状態だ。こういったケースでは機能を追加すればするほど、製品がややこしくなって、かえってユーザー離れの要因を作ってしまうし、新規ユーザーの芽も摘んでしまう。

ユーザーストーリーマッピングと課題解決

ユーザーストーリーマッピングは複雑な分析になればなるほど、その効果を実感できる筈だ。小学校の授業にもプログラミングが導入されることでプログラマー人口はさらに増えていくだろうが、機能を最適化するデザイナーの存在はますます価値を高めていくことになるだろう。

上図のような分析表から小学校時代の作文に立ち戻ると感慨深いものもあるが、マス目が増えるほど、何を、どこにのパズルは難しくなる。AIソフトの機能などは少なくても二桁に達するし、複雑性と簡便性のトレードオフの問題や、定義済みかカスタマイズ可能かといった仕様の設計いかんによっても、総体的な受け入れられ方は変化していくわけだから、戦略と戦術のさじ加減には絶妙なバランス感覚が求められてくる。将棋やチェスの世界もそうだろう。素人が盤面のまんなかあたりをずっと見つめていると、プロの棋士はそっと隅っこの歩を進めてきたりする。最善手を指すには、これはもう経験とセンスしかない。

まとめ

ユーザーストーリーマッピング後のソリューション、実際の業務において製品がどのように変わっていったかはここでは紹介できないが、それはもう笑ってしまうぐらいの(歴然とした)差になる。やはりきめ細やかな技術が必要だということは銘記して頂きたいところだし、経験不足の方々は、たとえ誰かに課題を丁寧に砕いてもらっても、こまかなデザインなども行えない場合が多いだろう。最近では、東大、早稲田と学歴優秀な方々と働く機会も増えてきているが、これがまた使えないことが多い。デザインダメ、補完性ダメ、関係ないことに工数かけることだけが得意という感じでどうしようもない。素直なところは良い点だが、勘所を磨きあげていくには、実地での長期の修練が要求されていくことだろう。

大手に長期勤務の方もそういった傾向が強く、MTGの内容などをまったく理解していないことも多いので、いよいよと自分の使命、これが天職であるとの自覚が深まってきている。今後はコロナ禍などによりますます分野横断的なコミュニケーションの最適化が求められてくるだろうから、このユーザーストーリーマッピングを軸とした経営手法は輝きを増していく筈だ。