保有効果

UI・UXエクスペリエンス保有効果

Behavioral Economics - 2020 - Three Philosophers

所有物への愛着が過剰な評価をもたらす。
今回は保有効果と呼ばれる認知バイアスについてまとめてみよう。人は「既に自分が保有しているもの」に対し、(いつでも保有できる状態にあるものの)「まだ保有していないもの」よりも高い価値を認めてしまうというバイアスだ。

保有効果

エコン(ホモエコノミカス:バイアスの働かない経済)の世界とは違い、保有効果の働く我々ヒューマンの世界では、一旦所有したものに関しての評価値にバイアスが働くようだ。
実験で「宝くじ」と「宝くじ一枚分の現金」、「マグカップ」と「ボールペン」などの組み合わせで、そのどちらかを与えられた被験者たちは、マグカップを与えられればマグカップを、ボールペンを与えられればボールペンに高い価値を見出すようになり、所有者側(売り手)の評価値は買い手側の2倍近くにまで跳ね上がったそうだ。この保有効果には即効性があるようで、ダニエル・カーネマンが好んでインスタント保有効果と呼んでいたように、強力なバイアスとして人間の感情に働きかけてくる。

エイモス・トベルスキー氏のジョーク

保有効果にはプロスペクト理論における損失回避性はもちろん、現状維持バイアスなども加わってくるので、バイアスとしてはある意味とても強固なのである

行動経済学の第一人者であるリチャード・セイラーによれば、静止している物体は他から力を加えられない限り動かないが、人間のこころも、こういった惰性(物理的現象)と同じようなふるまいを見せるという。ナッジでも語っている通り、私たちヒューマンは、基本的にはうっかり者であったり、ぐうたらであったり、そしてまた損失には過剰なまでの反応を示す"ややこしい"生き物なのだ。

ダニエル・カーネマンと共同研究を行ったエイモス・トベルスキーは生前に「かつては保有効果の働かない種も存在していたが、今は絶滅している」とジョークを飛ばしていたそうだ。

公正感と保有効果

リチャード・セイラーは、保有効果には公正感のような意識、感情が深く関連していると述べている。買い手も売り手も、自分たちが慣れ親しんでいる取引の条件は、当然受け取るべき権利だと考えていて、そういった条件が少しでも悪化すれば、それを損失と受け止める傾向にあるということだ。

配送業者のナビダイヤルなんかは良い例だろう。配送のクレームを言うのになぜお金がかかるのか。商品へのダメージという損失にさらに無駄な費用(新たな損失)が乗っかってくるのは我慢出来ない。たかだか300円くらいの何ともない金額だが、家の壁に穴が開いたほどの不快感を感じるのは、自分の中の(こうあるべきだという)公正感が大きく影響しているからだ。

リチャード・セイラーは、銀行の窓口で質問をするだけで発生する3ドルの費用、夏場に値上げされた炭酸飲料、配車アプリの料金上昇システムなど、実際の炎上事例を挙げながら、目先の利益を追うばかりに信用を失うと二度と回復できないと語っている。

まとめ

最後は本来の意味からは少しばかり脱線したが、サービスを受けるということは保有するということである。そしてイケア効果のページでも語っている通り、人間は特定のモノを保有する以前から、想像や期待といった要素で保有(所有)意識を高めていく。サービス提供者は、ユーザーの体験がどこから始まりどこで終わるかをしっかりと認識し、タッチポイントを明瞭にしていくことが求められてくるだろう。