Behavioral Economics - 2020 -
理路整然と並べられた物理世界の「モノ」と、瞬間瞬間で移ろいゆく人間の「ココロ」は別物であり、コンピュータと人間の認知力にも大きな差がある。現在流行のサブスクリプション系の契約プランを選択する際にも、この人間の心理的「ぶれ」が大きく影響してくる。
まずは以下のように二つのタイプから選ばせるタイプだ。購読者はウェブ版のみのプランか、紙もウェブ版もどちらも読めるプランから一つを選ぶ。
アクセス者の経済状況、コンテンツの質など様々な条件はあるが、このプランだとおそらく、ウェブ版の購読者が多くなるはずだ。
次は三択だが、はじめの二者択一のプランに、印刷版のみのプランが追加された。なんと、これを追加するだけで先ほどの結果が大きく変わるのだ。
いわば、「印刷版の購読」は「おとり」なのである。このおとりにより、人間の心理が相対的に引っ張られ、二者択一のケースでは契約数の伸びなかった「印刷版とウェブ版の購読」プランの契約数が飛躍的に増加するのだから、人間の心理は予測が難しい。
今後はニュースサイトの購読オプションなどで、扱う商品の価値が違うのに価格が同じのものを見つけても疑問に思う必要はない。その選択肢は売り手の間違いではなく魔法(おとり)なのである。
ガラケー全盛期には「捨て色」なんていうものも取り入れられた。言ってみれば売れない色の本体を混ぜることで、他の色の機種をより引き立てようというわけだが、本質的には今回紹介した事例と同様のものだろう。
色の相対性のページを見て頂くとよく分かるが、人間の認知能力というものは、まわりの状況に引っ張られて、対象の価値まで変化させてしまうのである。色に関して言えば、コンピューターなら毎回同じ6桁の英数字で返してくれるが、人間の認知能力ではその値が(相対的に)ぐらぐらと変化してしまうのである。行動経済学では、プロスペクト理論なども含め、基本的にこういった人間の不確実性(非合理的な側面)を扱っている。
冒頭でも語ったように、今流行りのUXやDX案件ではABテストという効果測定が行われることが多いが、われわれ第一線で働いてきた技術者からすると、例えばバナーデザインや色の問題など「そんなものテストするまでもない」ということも多い。しかしながら、本ページ紹介した人間心理にふれる部分はなかなか予測が難しく、ある種の知識やデータを積み上げていかなくてはならないと感じたので、デザインや表現の本質を語るサイトに「行動経済学」という一つのセクションを組み込んだ次第である。心苦しさはあるが、ビジネスの現場ではこういった要素も必要な時があるのだ。