Behavioral Economics - 2020 -
皆さんは家具を自分で組み立てたことはあるだろうか。私は面倒くさがりなので、家具について言えば、完成品のものを買ったり、組み立てサービス付きで買うことが多いけれども、多くの人は「どの部品がどこにはまり、どのねじがどの穴に合うのか」といったことを見つけたり体感することで、対象の所有意識を高める、ということが行動経済学ではよく語られている。
ダン・アリエリーとマイク・ノートンが行った所有意識に関する実験では、「自分自身で製品に手を加えた」グループは「手を加えていない」グループよりも、 ことごとく「自分自身で手を加えた製品」をより高く評価したそうだ。彼らはこの人間の奇妙な「手間ひまかけて構築したものに愛着を感じ、過大に評価する」特性をIKEA効果と名付けた。
行動経済学では保有効果やサンクコストも有名だ。人間は損失には(後悔や捨てきれないココロで)執着し、愛着はその対象に過剰なまでの評価を下してしまう。例えば、ネットオークションに参加している時など、未だ手に入れていないものに対して(想像の力だけ)で所有意識を高めていってしまう特性もあるようだから、実際にゲットし、手を加えたものは、他より優れたものだとほれ込んでしまうのだろう。
実際のところ、それなりに投資してカスタマイズしたパソコンは高く売れるし、愛着を感じるかどうかの以前の問題として、製品を大切に扱うこと自体がそれなりのリターンに繋がることは多くの方が知っていることだろう。
時にカスタマー(ユーザー)の購買体験の向上には「欲求」と「面倒は嫌」といった相克するものを天秤にかける作業が必要になることが多い。その面倒の部分を利用しているとも言えるのが、メーカー設定のカスタマイズオプションであり、そこでは(自分で手間暇かけた場合より)かなり高額の料金が設定されているケースが多い。
また、全く同じ手数でもストレスを軽減させることが可能になるのがインターフェースデザインであり、UI(製品の使い勝手)の向上は、即「信頼性の獲得」や「ユーザーのファン化」につながるため、「定義済み」か「カスタマイズ可能か」の部分はGoogleなどの巨大テック企業においても、UXチームなどでよく議論されてきた部分であろう。
収益を上げるタイミングと信頼を得るポイントへはよく見極め、専門性をもってバランス良く注力していく必要がある。また、(メーカーオプションで固定化しすぎず)行き過ぎない範囲でユーザーにカスタマイズや手間をかける機会を与える製品も、実際に評価や共感を呼ぶケースが多い。このようにアイディアと技術の両面をもって、はじめて(ダン・アリエリーが定義したところの)IKEA効果や、行動経済学でしばしば語られる保有効果を活かすことが出来るだろう。