タイプフェイスと読書体験

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フォントと読書体験における理解

サイコロジータイポグラフィ書体と理解力

Typography and Psychology - 2019 - Three Philosophers

書体がもたらす力は大きい。可読性・視認性を高めれば信頼に繋がるし、時に歴史的な欧文書体で企業名を刻印しただけでも、圧倒的なブランド力を示すことも出来る。では、読むという行為に限定するとどうか。Susan Weinschenk著「続・インターフェースデザインの心理学」ではディーマンド=ヨーマンが行った、フォントによる記憶力の差が紹介されている。このページでは与えられた検証結果と実際の読書体験について書いてみよう。

書体による記憶力の差

ここでは細かな実験内容は割愛するが、簡潔に述べると、ディーマンド=ヨーマンが行ったのは「異なるタイプフェイスで情報を提示された時、被験者の記憶力に差が見られるか」である。

まずはArial。視認性・可読性に優れたスタンダードフォントの1つだ。しかも、被験者には後述のComic Sansよりも、大きく濃い色で、見やすく提示されたようだ。

Comic Sans MSはポップで、ちと安っぽいフォントと認知されている向きもあるなか、ここではさらに薄く、小さく貧弱な形で提示されたが、被験者はArialよりもComic Sansで記された情報のほうを14パーセントも多く記憶していたそうだ。

非流暢性とシステム1・2の切り替え

同著では流暢性・非流暢性という言葉が引用されている。「あることを習熟するのが簡単か、そうでないか」という感覚のことだ。人間は人間として過剰にストレスをため込まずに生き抜くため、面倒くさがりの側面を、ある種「ギフト」として(良くも悪くも)授かっている。ダニエルカーネマンの考えは本サイトでも度々登場するが、だらだらアイドリングモードの「システム1」から、本気モードの「システム2」に突入するには難しい問題に直面しているという感覚(非流暢性)がブーストになるという考え方もたしかに頷ける。実験の被験者たちも、へんてこな、いつもと比べて整っていない書体を前にして、ある種、脳を活性化させたのかもしれない。

電子書籍のフォント群

さて、私もいつもとは変わったフォントで読書してみることにした。 (2019年末現在)iOSのブックアプリに導入されているSeravekというHumanist Fontsに属する書体に切り替えて、経済学の洋書を読んでみたところ(このSeravekは非流暢性とは無縁の洗練された書体かもしれないが)何というか実に良かった。

KindleではBookerlyに加え OpenDyslexicといったかなり冒険的な書体も採用されている。 未だにレイアウトエンジンは発展途上で日本語と英語が入りまざると読みにくい箇所もあるが、サイコロジー的な側面も考慮された様々なタイプフェイスの登場により、読書体験は向上していると言えるだろう。

フォントで読書時の視認性や理解力はこれほど違う

たしかにポップなフォントも効果がある。

まとめ

そもそも電子書籍は紙媒体の書籍に比べていくつかのデメリットが指摘されている。例えば、トポグラフィ(地形)の欠落があるが、個人的にも、紙の重さを感じ、書籍全体の中間あたりだとか、右側のページの左下に情報があるという具合に、なんらかの情報を加えて記憶域にマーキングが出来る紙媒体の書籍は、学習という点でかなりの優位性があると感じている。しかしながら、気軽にタイプフェイスを変えることが出来るのはかなりのアドバンテージにもなりそうだ。電子書籍では(美しく読みやすい筈だと)脳内でGeorgiaを「デフォルト指定」していたが、時に他のフォントに切り替えることで、より脳を活性化させることが出来るようだ。