インサイトを探る

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UIUXBusinessインサイトを読む

UX Designer - 2020 - Three Philosophers

インサイトやニーズという言葉は、IT系の仕事や、マーケティング分野で、毎日のように飛び交っているキーワードだろう。「おはようございます」や「お疲れさまでした」は一日一度のみだろうが、こういった言葉の呪縛はなかなか私たちを離してはくれない。仕事的にはベテランの域にさしかかった私でさえも、ユーザーのどの部分に働きかければ良いのかぼやけてくる時がある。このページでは、インサイトとニーズの違いや、ユーザーボイス収集時の基盤の整え方などをデザイナー視点で軽くスケッチしている。

ニーズとインサイトの違い

ニーズというのは、文字通り、何かが必要だと感じていることである。インサイトはユーザーを揺り動かすような(気づきにくい)ファクター的な意味合いを持っている。「家が欲しい」がニーズ。展示場に行って「なぜ家が欲しかったのか」と新たに気付く部分は、インサイトに近い。

人々に何が欲しいか尋ねても、
もっと速い馬が欲しいと言っただろう

これはヘンリー・フォードの有名な言葉(If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.)で、(フォードのTモデルが登場するまでの)カスタマーニーズ(ここでは速い馬)とインサイト(ここでは車:フォードTモデル)の分類としてとても分かりやすい。

フォードTモデル

Ford Model T - 1920 - Customized by One Inventive Owner.

もっとも本当に当時の人たちが「もっと速い馬が欲しい」と言ったかという部分は疑問であり、実際のTモデルの写真を見るに、本当は「馬車のような車が欲しい」と言っていたのかもしれないが、そうなるとニーズとインサイトの対比として成立しなくなるので、一旦この話はここで止めておく。

インサイトをさぐる

インサイトを掴もうとする時、人によっては忖度をしたり、プライドから本音を喋ってくれなかったりと様々な障壁が考えられるが、実は本人自身でも破れない意識の壁のようなものこそ、マーケティング戦略の敵でありヒントでもあるのだ。

誰かが何かに対して忖度する瞬間には、遠慮というか、優しさというか、弱さというのか、それこそインサイトに内包された様々な要素がそれとなく表面化されてくるわけだから、見極めには注意が必要だ。製品紹介のページにはお客様の声が掲載されていることが多いが、実際に「とても役立っている」と答えてくれた顧客が(データ分析の結果)ログインすらしていなかったということもあり、特に面と向かってのインタビューではためらいを持つこともあるのだろう。出来る限り正確なインサイトを拾いたいのなら、ユーザーインタビューには工夫が必要だということだ。ニーズをヒアリングするのももちろん大切だが、我々からも相手からも何かしら未知の部分が引き出されていくようなインタビューにしたい。

インタビューとアンケートの問題点

インタビューやアンケートはどれくらい有効だろうか。あなたはプレゼント欲しさに応募するハガキのアンケートに真面目に答えるだろうか。人は対象によほど執着していなければ、特定の質問をされても瞬間的に答えは出せない。お腹が空いていないときに「今晩、何を食べたい」と聞かれても思いつかない時もあるだろう。部署内で前任者の業務を引き継いで、特定のソフトウェアを使うことになった際、ベンダーから「機能のどこを改善してほしいですか」と聞かれてもパッと答えは出てこないだろう。このようにインタビューやアンケートも対象によっては全く機能しないケースもある。本当の声を聞くにはしっかりとした準備を行いたい。

アハ・モーメントの創出

人間、快感を求めている。せまい部屋に閉じこもってミーティングするより、海岸沿いでゆっくりアイディエーションする方が気持ち良いに決まっている。そんな時、ウミガメが甲羅干しに沖に上がってくるのを見ようものなら、言い知れぬ感動に身が包まれるのではないだろうか。アイディアに行き詰まった時はユーザー、顧客の最高のシチューエーションを想像してみるのもインサイト発掘に繋がるだろう。ゲームではよく「中毒性」という言葉があるが、脳に響くサウンド、ジャンプした時の爽快感など、アハ・モーメントの創出により、インサイトが表層化し、ユーザー本人も予想し得なかった感動に包まれる時、ユーザーは製品の虜になる。

カスタマージャーニーマップ、モックアップ

ここからはインサイト抽出フローの基盤として機能する手法の一例になるが、UXデザイナーとして戦略会議などで他部署の意見を聞いた後は、CJM(カスタマージャーニーマップ)を作るようにしている。改めて全部署的にユーザー(カスタマー)のタッチポイントを共有してもらう意図だ。タッチポイントとは気持ちに変化が生じるタイミングのことである。ここでもインサイトとニーズの境界線の設定に迷う時があるが、インサイトはなかなか表に出てこない部分と捉えておこう。業界的にはカスタマージャーニーマップにはテンプレート化されたパターンも多いが、ユーザーニーズに留まらず、ユーザーインサイトの取っ掛かり部分でも良いから表現出来ていれば頼もしい。ぜひ、ひと工夫加えて次のステップであるアイディエーションに繋げていこう。

UI(モックアップ)デザインも同様で、スティーブ=ジョブズ氏も「インタビューよりも形あるプロダクトを提示することで、インサイトが表層化される 」旨の発言をしていたように、やはりここでも(他部署の方は)机上の戦略よりも、動くUIに目を輝かせてくれる。

ユーザーストーリーマッピング

さらに細かくファクトとしての行動分析をして、そこに解決案や予測行動の軸などを加えたユーザーストーリーマッピングもUXデザインの醍醐味の一つだ。このマッピング行為には、ユーザー(カスタマー)以上に、とるべき行動を予測・最適化してしまうという意味合いも含まれている。言ってみればニーズの洗い出しや可能性(インサイト)の深掘りにも通じるところがある。ここまで指摘してきたユーザーの「あいまいな」部分を少しでもクリアにしていくことで基盤が整う。

通常はスティッキー(付箋)を壁に貼り多人数でワイワイと賑やかにマッピングしていくことが多いが、 この手法に最適化されたソフトウェアもあり、それらを使えばオンライン上で部署間の共有や編集も可能になる。お世辞のうまい人が「21世紀の大発明」と呼んでいたのも、あながち冗談に聞こえないほど、私自身も確立された手法としてとても気に入っている。

まとめ

よくよく考えると、実に原始的な発想・手法がインサイトを引き出す力になっていることが分かる。ユーザーストーリーマッピングも、純粋な子供の作文のような側面もあるし、動くものを見て閃きが起こるのは大人になっても変わらないということである。インサイトをさぐる方法は様々だが、このページで紹介した手法はどれも素晴らしいし、新たに考えてみるのも良いだろう。何より自分たちがプロセスを楽しめれば、結果も素晴らしいものになる可能性が高い筈だ。

もちろん、様々な角度からインサイトをさぐっても成果が見えにくい製品があることもあるだろう。言ってみれば、そこそこは売れても機能や魅力が足りないがために、伸びしろが少ない製品群だ。たとえば吉野家が(2019年初頭時点で)小盛や超特盛などをヒットさせたと言っても、根本的な認知度やコスパの問題もある。スタートアップやキャズム手前の弱小企業はマーケティングやインサイト深堀りなどの以前に、MVPモデルは優れているか、ホールプロダクトはどのように設計・予測されているかなど、細かで堅実な手直し見積もり・実装が必要だ。残念だが、机上の空論タイプのプロダクトオーナー(脳内が大手レベルに飛躍していたり・・・)もたくさんいるし、一部のステークホルダーはやみくもに成果を求めようとしてくるから、その都度製品開発を促したり、可能な限り開発フローに参加してもらうと良いだろう。