メンタル・アカウンティング

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経済心理学メンタル・アカウンティング

Behavioral Economics - 2020 - Three Philosophers

今回はメンタル・アカウンティングと呼ばれる、消費時や貯蓄時に「人はお金についてどのように考えるか」について、行動経済学(心理学)の視点からまとめてみよう。

世の中を理解するためのレンズ

リチャード・セイラーがエイモス・トヴェルスキー、ダニエル・カーネマンと過ごしたカリフォルニアでの1年のあと、セイラーは消費者の選択行動を、カーネマンとトヴェルスキーはプロスペクト理論の追跡研究を進めたが、両者ともに考えているトピックが一つあったそうで、それが今回扱うメンタル・アカウンティングだったようだ。

セイラー氏自身は当初、サイコロジカル・アカウンティングと呼んでいたが、カーネマンとトヴェルスキー両氏がメンタル・アカウンティングに呼び方を変え、セイラー氏もそれに従ったとのことだ。

獲得効用と取引効用

経済学では、消費者が財やサービスを消費することによって得る主観的な満足の度合いを効用(utility)と呼んでいるが、リチャード・セイラーは消費者の効用を、獲得効用と取引効用の二種類に分けて定式化した。

暑い日にビールを飲むためにお金を払う。その対価によってキンキンに冷えたビールが喉を通って全身に溶け込んでいく。ここで得られる満足は獲得効用の範疇だ。しかし、ビールを買った場所が、リゾート地の高級ホテルか、さびれた商店かで、同じ値段でも「得」「納得」「ぼったくり」と感覚が変化してしまうのだ。これが取引効用である。ヒューマンは常に何かを期待しながら、事細かに評価しているのだ。

希望小売価格のワナ

ほとんど架空の「希望小売価格」が消費者のお得感を誘発してきた事実は見逃せない。洗剤やらトイレットペーパーなら即座に脳内で適正価格が参照できるだろうが、新築時のラグマット、小売店のスーツなどは、難しくなる。こういったケースでは、売り手が何の根拠もなく高額な希望小売(ぼったくり)価格を設定しても、取引効用で「得だ」と誤認してしまうかもしれない。

10ドルではなく9ドル99セントで売るのも、お得感を出す伝統的な手法だ。コンビニのレジの前には募金箱があるが、会計後のタイミングだと端数をあの箱に投じることに躊躇いはあまり起きないが、商品を手に取る瞬間はまた別の感情に支配されるのだから人間はややこしい。そして、人は商品の価格だけを注目しているわけではないから、ネーミングやパッケージの好みなど、人間の感情に訴求する他の要素にも注目する必要がある。

行動経済学(心理学)と生活

リチャード・セイラーがプロスペクト理論の価値観数に衝撃を受けたように、私自身もやはり限定合理性(人間はいつも合理的なわけではない)を学ぶにつれて、お金に対する意識がそれなりに変わった。上で書いたセールスなんかは気をつけようと思ったし、旅行などは「人間なのだから、思い出に対してエコンのようにふるまうのはおかしい」という感覚も強くなった。臨時収入であれ、アフィリエイトでコツコツ貯めたお金であれ、「散財」も「ケチ」も行わなくなった。畢竟すると生活そのものはさして変わらないということになるが、むしろデザイナーとして、サービスデザインに対する意識が良い方向に向けられるようになったと感じている。私生活というより、仕事面での変化のほうが大きかったということだ。それはまとめで書こうと思う。

まとめ

メンタルアカウンティングが「人はお金についてどう考えているのか」を説明するものだとすると、このページで取り扱った内容だけではとても足りるものではないし、行動経済学的には、より多角的に深堀りしながらの考察も可能だろう。しかしながら、行動経済学を紹介する書籍やウェブページを見ていると、あまりに金儲け主義のトピックに紐づけられていることが多く辟易してしまうことがある。これはリチャード・セイラー自身も警鐘を鳴らしている。

サービスというのは、アカウント(お財布)のなかの貴重なお金を消費してもらうことだが、個人的には、ここであまりに心理部分にフォーカスするのは間違っていると思う。ナッジのページでもセイラー氏が語っているように、その考案したラベルやメッセージが「良きもの」に繋がってこそ本物なのである。世の中を理解するためのレンズ(行動経済学の知識)を手に入れたのであれば、良い商品を提供することにフォーカスし、売り手、消費者双方の満足度を高めていくことが求められてくる筈だ。